リレー小説第一話
4.『恐怖の前座ショウ』

ワーワー!!
ショウのためにキグルミを着た生徒達が大勢スタンバイしている闘技場の隅で、辛井は格好のキグルミを見つけた。
「へっ。こりゃあおあつらえむきだぜ…」
辛井が見つけたキグルミとは…




「それにしても、暑ィィッ!!」

辛井はあまりの暑さに悶絶した。無理もない。
また学ランを盗られる可能性がある為・・・また、南京錠の鍵を見つけた場合
すぐに熱井へと手渡す為に学ラン持っていなければならない。
それには、どうしても収納上着込まなければならなかったからだ。

「ま、人型だったのが唯一の救いだけどよ・・・それにしても・・・
これはねえんじゃあねェのか」

辛井の着込んだきぐるみは、お爺さんの着ぐるみだった。

メイクすればいいんじゃないか・・・と突っ込まれそうではあるが、
着ぐるみで統一しているみたいなので、しかも好都合だ。気にしないことにする。
手に持った包丁、背負った薪、髭に頭巾、その格好はお爺さんそのものだった。
配役の都合上、すぐにでも冷多井に合う事が出来るだろう。
あわよくば、ぶった切る事も出来るかもしれない。にひひ。

・・・そう、“なかよし名物・恐怖の前座☆ショウ”とは、
桃太郎の劇、そのものだった。着ぐるみを着た生徒達が劇を演じ、
そして最後の鬼ヶ島での決戦、そこが決勝ラウンドに見たてられたものだったのだ。
「熱井が鬼かよ・・・いい様だな、ちょっと見てみてえ。」
かくいう自分は爺なのだが。そうしている内に、群がる生徒群
(といっても、配役の都合上鬼ばっかしなのだが)の中から、
ひときわ目立つ、ピンク色の物体を発見する。

「・・・と、いたいたいたぁッ!!」

発見した瞬間、もう既に爺・・・もとい、辛井は走り始めていた。
はたから見れば、爺の着ぐるみが突然よぼよぼ歩きから
クラウチングスタートをしたかの様な動きに早変わりだ。不気味この上無いだろう。

「あ、お爺さんはこっち。手はず間違えないでね」

「え?」

辛井はひょいと襟を掴まれ、連行されて行ってしまう。
その生徒・・・ADの様だが・・・をぶん殴って進もうとするのだが、
いかんせん、着込み過ぎだ。後ろは完全に死角になっている為、
ぶんぶん振りまわす腕は当たらない。
「はいはい、暴れない。暴れない。緊張してるのはわかるけど」

「違ェーーよっ!!離しやがれっ!!」
辛井が羽交い締めにされて連行されて行く様を見て、冷多井は鍵を持ってほくそえんだ。
もちろん、桃の着ぐるみは着こんだまま。

「ふふ・・・案の定かかって・・・いいわ。そんなものくれてやるわよ。ただし・・・
この劇を演じきってからね。まとめて葬ってあげるわ!ホホホ!!」
その声が聞こえてか聞こえずか。

「くそっ!今に見てろよ!!」
辛井は、拳を鳴らした。

・・・その一方で、熱井は決勝に向けて着々と準備を始めていた。




「おい。何だこれは」

控え室で熱井は憮然として言った。
ここは今までの汚くて小さい控え室ではなく、メイクルーム付きの大きく明るい控え室だ。
ついさっき決勝選手として扱われてこの部屋に案内・・もとい、連行されてきたのだ。

「アナタには、これから「桃太郎」のラスボス、鬼を演じてもらいマース!」

「……だから何で鬼の格好をさせられているのかと聞いているんだ。」

「オーソーリー!まさか熱井ボーイが決勝まで勝ち進むとは思ってなかったので、マターク説明してませんでしたネー!!毎年この仲良し地獄学園コロシアム決勝戦は、『勝ち進んだ生徒』と、『最終シードである教官』との戦いなのデース。
そしてその教官にふさわしいショーを行うことになっていマース。
さらにショーのラストがそのまま決勝戦につながるというスバラシイ仕組みになっていマース!
娯楽の少ないこの学園では、このショーは一大イベントなのデース!!
決勝シード教官はピーチボーイなので、今回は『桃太郎』のショウが行われるデ−ス!」

「そういうことか…くだらん…。」

「心配しなくてもダイジョーブネー!熱井ボーイは鬼ヶ島闘技場でただ鬼のカッコで座っているだけでイイネー!覚えなきゃいけないセリフや踊りはナイヨ」

「あってたまるかっ!」

いつの間にか熱井は大きな鏡の前に座らされ、スタイリストのような格好の女子生徒達にえんえんといじられていた。

「正義のピーチ様に、悪の権化熱井ボーイはは斬り殺されてしまうのデース!OH!おそろしイデ〜ス!」

「ピーチボーイが正義の主人公・桃太郎、でこの俺が悪の権化・鬼というわけか…。馬鹿馬鹿しい。」

そうだ。この閉鎖された空間では、熱井は完全な『悪』なのだろう。ピーチボーイこそがここでは正義なのだ。
別に『悪』そのものを拒絶するつもりはないが、この「ココでは当たり前」の扱いに、熱井は不快感を感じざるを得なかった。

………………

「やーん!かわいー」
「だめよキョウコ、こっちのほうがかわいいわよ!」
「だめだめそんなのー!!熱井クンは絶対この色だもーん!!」
「イヤー!熱井様・このお帽子取れないですわーっ☆」
「あははーっ!」

…………いいおもちゃにされてるだけでした(笑)。

「さーできましたよ!ゲイシャガール教官!」

今、熱井のアタマには、2本の角が取り付けられ、プラスチック製の棍棒が手渡されていた。

「オー!ワンダホー!ベリークール!!」
となりでゲイシャガールが大喜びしている。
「さっ。そろそろ出番デース。」
熱井は鬼の格好で、決勝戦の行われる闘技場セットの下に移動していった。

(辛井のヤツ…うまくやってるだろうな…?)

「レディースエ〜ンジェントルメーン!!それでは、これから、『前座ショウ・桃太郎』、および、『コロシアム決勝戦・ピーチボーイVS熱井』を続けて行います!!皆さん!盛大な拍手でお迎え下さい!!」

どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「むかしむかし…あるところに…」
会場が半狂乱の歓声につつまれると、
「うっうわっ!なんだ!?」
お爺さん、いや、辛井は背中をドン!と押され、大観衆の見守るステージの上に登場した。

「ふっふっふ…。お馬鹿な辛井…。このショウにはいくつもの仕掛けがあるのよ…。」
桃の中にスタンバイした冷多井の手には、いくつものスイッチが握られていた。
「ショウの中で返り討ちにしてあげるわ…」
冷多井は不敵に笑った…。ここに、恐怖の前座ショウ『桃太郎』が幕を開けたのだった!

「おじいさんは山へ芝刈りに…」

ナレーションと同時に冷多井はさっそくいくつもあるスイッチの一つ目を押した。
すると!!
辛井(お爺さん)「!!!!なっ……!!」



辛井(お爺さん)の前には山のセットである木々が幾つかある。
その木々から一斉に何か液体が飛んできた。

身の危険を感じ全ての液体をよける。

それから数秒後、液体のかかった床はジュウジュウと
音を立てて熔けていった。

「!!!なっ・・・・!!」
驚く辛井(爺さん)をよそに木々からの液体
一斉に第2射がとんできた。

「くそっ、どうすりゃいいんだ!!!」
と、わめくうちにある名案が浮かんだっ!


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「・・・まだここでヤられる訳にゃいかんのじゃよ!」(←何気に役に感情移入。)

辛井は唯一立派に作ってあった、この爺さんの着ぐるみの禿頭(特殊樹脂製でかなりテカっていた。)
を思い出し、迷わず頭を突き出す!!



チカッッッッ!!!!!!



じゅばぁっ・・・



ステージに飛び出したときにライトが集中していたこともあり、
反射した光は某使徒の閃光(汗)よろしく液体を異様な煙とニホヒを周囲に撒き散らさせながら蒸発させた。



「クサ!!!!!!!」

一斉に放たれる、臭いを嗅いだ者達の精神的苦痛と断末魔にも似たコラボレーション・・・・・・

かなり後ろの観客をも唸らせたニホヒは当然、ブーイングの引き金になった。



しかし、そんな低い、むさ苦しいブーブー声のなか、突っ伏しているものもいた・・・
最前列近辺の観客とその周辺に移動していた冷多井だった。



自らの罠を発動させるタイミングに正確さを求めたことと、(こっちの意味合いのほうが強いが)
罠にかかってのた打ち回るところを真近で見て、蔑もうという魂胆があって最前列近くまで 来ていたのが仇になった。

 劇臭で目眩をおこし卒倒して、不覚にも0.000何秒か意識がなくなっていた。



「っく!!!・・・・目ざとく反撃の機会をうかがっていたとは・・なかなかにド畜生並みにしぶとい精神をしてるようね。もう少しいた〜〜いお仕置きで是非!素晴らしいアドリブ を演じて戴きたいものね・・・・・・・・」



ギリリ・・・と、冷多井の罠発動スイッチを握る手に力が篭もる・・・



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「流石オレだ!!!」

辛井(お爺さん)は欠かさすガッツポーズをとった
そのガッツポーズが仇となったか観客に顰蹙を買い、何名かは
ステージに上がりだした
手にはヌンチャク、木刀などが握られている
「ぶっ殺すぞぉッ!!!」
上がってきた一名が罵声を発した
その何名かの行動が切欠となり次々にステージに観客が上がっ
てきた

「・・・次の罠を発動させる必要はないようね」
と冷多井は目薬片手に呟き、その場から去ろうとした、その時

パコォォンッ
「イタァ!?」

冷多井の後頭部に衝撃が走った
冷多井が振り向くと足元にはヌンチャクが落ちていた
どうやら先程の観客が辛井にやられてここまで飛んで来たに違
いない

しかも冷多井はヌンチャクが当たった衝撃で罠発動スイッチを
押してしまったようである

「・・・あ」

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 白煙を散らし、竹の子が飛ぶ。栗の実が炸裂し、棘をばら撒く。
 複数の生徒と格闘していた辛井は、その瞬間ちょうど一人の観客を蹴り飛ばしてい た。
「ぬぅお!?」
 とっさにガードの体勢をとる辛井。その腕に無数の棘が突き刺さる。
「やったわ!最高のタイミングね…さすが私。(偶然だけど……)」
 しかし、被害は辛井だけにとどまらなかった。さっきまで辛井に襲い掛かっていた 観客も、竹の子に吹き飛ばされている。
 悲鳴を上げ、逃げ回る観客たち。ひとりが、低木のセットにつまづいて転んだ。そ
こに竹の子(ミサイル)が飛ぶ!
「ひいいぃぃ!」
 ガッ!
 鈍い音が響く。


「……ったく、危ねえ奴だ…」
 着ぐるみお爺さんが、片足で竹の子を止めていた。ずっこけた姿勢のままの観客が、口をあんぐりとあけている。
「な!!」
 辛井はそのまま、竹の子ミサイルを蹴飛ばした。ミサイルは軌道を変え、観客席へと飛んでいく。
 その先には、もちろん冷多井がいた。
「ひいいいぃぃ!?」
 突然の飛び道具攻撃に動転する冷多井。
「ドリフアフロになりな!!」

 元々のスピードに辛井の蹴速を加えたマッハ竹の子は、真っ直ぐに冷多井に向かっ
て突撃し…
 180度、向きを変えた。
 速度はそのままだ。辛井の元へと返っていく。
「なにっ!?」
 辛井にミサイルが直撃し、舞台が爆炎に包まれる。
「あ、あなたは……」
 冷多井の前に、後姿のシルエットが浮かぶ。煙が流れるにつれ、その姿が明らかになった。
 冷多井と同じブレザー。うなじのあたりでバッサリ切った黒髪。しなやかな長身。

「何をしている、雪。」
 振り向き、冷多井に視線を向ける。その眼は、ゆらめくような炎を帯びていた。
「まさか、雹姉様!?」
「ゲストに怪我を負わせるとは…その『腕章』に恥じる行為と知れ。」
 冷多井 雹……冷多井 雪の姉が、冷たい口調で言う。
 何か言いかけた雪に背を向け、舞台へとあがる。
「やってくれたなオイ!!!」
 瓦礫の中から、辛井……お爺さんが立ち上がる。口から鼻の部分が派手に破れてい
て、妙にグロテスクだ。
「舞台は、関係者以外立ち入り禁止だ…いますぐ退場してもらう。」
 流れるような構えを取る雹。
「何者か知らんが・・・行くぜ!!」
「こっちが言いたいな、ご老人。」
二人が、一気に間合いを詰めた。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(つづく)

<現在ここで終わっています。つづきを作るのはアナタだ!>


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