3.『コロシアム』 |
「死合・開始!!」 試合開始のドラが響いた。 「早速だが…いきなりこいつを使わせてもらうぜ?」 と言って、一郎は『ゴーグル』をポケットから取り出した。 「おおっ〜と!田中三兄弟、いつもの形に持っていくのか〜!?」 審判も観客も、待っていたかのように騒ぎ出した。 「フフ…、このゴーグルは…」 「このゴーグルは、なんと『相手の嫌いなものが見れる』という、ありがた〜い特殊能力があるんだよ!」 「だから、セリフを取るなっつってんだろうが、二郎!いつもいつも、おいしい所を!!(泣)」 一郎は、今にも泣きそうな顔であった。 「…まあいい。嫌いなものを言えるのは、この一郎様だけだ…。そのセリフだけは、誰にも邪魔できん…。」 一郎は、泣きそうな顔から、一転、、本当に嬉しそうな顔に変わる。 「嫌いなものが見れるゴーグルねぇ…。まあ、ハンデにはもってこいの物だな。」 辛井も余裕たっぷりの顔だ。見るまで待ってやっているという時点で、ハンデなのだがな。 「強がりを言っても無駄だぜ〜?さ〜て、お前の嫌いなものは……ふ〜む…」 「ふ〜む、何々?熱井血士雄に、漢らしくない奴、競技用海パン、カラいものねぇ〜?お前、 『辛井』っつー名前のくせに、カラいものが嫌いなのかよ!変わってるね〜!」 「って、どうやって見たんだよ!」 と、二郎がすかさず、サブミッションに(三村風に)にツっこんだ。なぜなら、もう一郎にはツっこむ力は残っていなかったからだ。泣き崩れる一郎は、それはもう、非常に無様な姿であった。 しかし、無常にも試合は進む。 「おいおい、俺様の名前は『辛井』だぜ?カラいものが嫌いなわけねぇだろうが!『カラい』じゃなくて、『ツラい』と読むんだよ!」 これには、さすがに、俺を含め、辛井以外の者は驚きを隠せなかった。いや、一郎には聞く力も残っていないか。 …そもそも、嫌いなものに『ツラいもの』なんて書く奴はいないよな…わかりにくいし。そもそも、『カラい』と『ツラい』はどうして同じ漢字なんだ?……いや、関係ないか…。 「と、とにかく、嫌いなものはわかったんだ!そこを攻めていくぞ、サブ!よし!お次は、俺の特殊道具で決めてやるぜ!」 と二郎が言った瞬間、 「もう、いちいち待ってらんねーぜ!」 一瞬にして、辛井は、田中三兄弟との間合いを詰める。 ドゴォ!!!! 鮮やかな蹴りがキマッた。…一郎に。彼は防御する力も残ってなく、場外に吸い込まれるように、吹っ飛んでいった。 「わかってんだろ?俺は、漢らしくない奴が嫌いだってよ。メソメソした奴は、とっとと目の前から消えてもらわなきゃ……なぁ?」 二郎とサブミッションの表情が凍る。 「さて…お次は誰が消えたいんだ?」 「次峰!二郎行きまーす!」 高らかに宣言して二郎が辛井に突撃する。その様はまるでスローモーションの様だったが、 無常にも時は流れて辛井は二郎を迎撃に当たる。 「グオゴゴゴ」 「・・・あまいゼッ!激辛流穿刀脚ッ!」 「ギャアーーーッ」 勝負は、一瞬の内についた。 突撃してきた二郎のどてっぱらを、辛井の足刀が貫いたのだ。 力なくくずおれる二郎。その様を見て慌てるサブミッション。 そのサブミッションに向けて、辛井はゆっくりと近づきつつ言い放つ。 「手前ェで最後だなぁ・・・覚悟は完了してっだろーな?」 微妙に古い言いまわしを使いつつ、拳をばきり、ぼきりと鳴らして近づく辛井(←だから拳って・・・)。 一方、サブミッションはといえば・・・ガムをかみながら意外にも余裕の表情だった。 「クックックッ・・・まさか俺の出番回ってくるとはな・・・まぁいい」 Peッ!とガムを吐き捨てると、懐をごそごそとまさぐり始めた。 コンビネーション戦法に出番もくそも無いと思うのだが。 「おいおい?何を始めようってェんだよ」 「フフフ・・・俺は巷じゃリーサルウェポン、ドラの異名を持つサブアイテムのサブ、と恐れられた物よ」 観客席からは、えッ?じゃあサブミッション(関節技)は?という声がちらほらと聞こえたような気もしたが、当事者を含む全員が黙殺するという事でその件はうやむやになった。 まぁ、あの体型じゃ関節技に持っていきようがないのだが・・・ 流石山田三兄弟の末弟。一人になってからが真価を発揮するのだろうか。 その懐から、光り輝く“何か”を取り出し、高らかに叫んだ。 「(ごそごそ・ぴかぴかぴか〜ん)カ〜レ〜○〜ック〜の〜カ〜レ〜ー!こいつは辛くて辛いぜぇぇ〜〜!! (←読み“辛”っ)」(CV:大○さん・・・大丈夫か?) ・・・観客から某筋肉男のネタが多いな・・・というざわざわ音が響く中、 サブミッションはじり・・・じり・・・と辛井との間合いをつめていく。 元より辛井は距離をつめていたので、二人は直ぐにお互いの間合いに入った。 「食らえっ!兄貴達の仇ぃ〜〜ッ!!(←注・死んでません)」 ズキュウウウンと言う音が鳴り響いたかと思うと 辛井の口に、サブミッションの持つカレーが注ぎ込まれた! 「ククク、おらおら、おら!死ねぇ〜〜〜ッ」 喉に大量のカレーを流し込まれる辛井。一郎の情報が本当なら、 辛井、最大のピンチの筈だ。 「辛井・・・っ!?」 熱井は観客席の手すりを叩いて叫ぶ。手すりがぱらぱらと、木屑を飛ばすくらいの勢いだ。 辛井はというと・・・ 何と、ちっちっちっと指鳴らしをして余裕の表情を浮かベて食べている! 「ふぁふぁいぜ・・・ふぇふぇえふぉ、あふひふぉ、ふぉふぉふぁふぇーふぉおっ(あまいぜ・・・手前ェも、熱井も、このカレーもぉっ)!!」 「なッ何ィィイイイーーーーッ!」 ドギャーーンと吹き飛ばされるサブミッション。 「俺はなぁ・・・全てを克服してここに来た・・・エセスカウター如きでは俺の力は図れなかったようだな・・・」 ぼきぼきと拳を鳴らしながらサブミッションに(←だから・・・以下略) 近づく辛井。舌なめずりをして、馳走とこれからの楽しみを味わう。 「だぁ〜がつらいもんか・・・俺の名前は辛井(しんい)だッ!」 再びざわめく場内。なるほど、その手があったか。 「へっ!嘘だぜ。両方とも、読み“辛”くて、ありゃしねえ」 場内大転倒。サブミッションも当然こける。その隙を、辛井は見逃さない。 「行くぜ、激辛井流最終“蹴”奥義!炎蛇連襲脚!!」 しなる脚による連撃が、サブミッションを捕らえた。 最早こうなると、逃げ出す事は不可能だった。 「ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ・・・・・・」 「ごっべっぶっばっ・・・・・・・!!」 顔の腫れたサブミッションが段々と空中に持ち上げられて行く。 長かった戦いも、ようやく終焉を迎えようとしていた。 「ヘビがやってくるーーーーーッ!!!」 キメの台詞(蛇かよ!)を吐いてから足を中段の構えに直す辛井。 やや遅れて、サブミッションの亡骸が横たわる・・・ 「勝者!辛井!」 「最早熱井んなんざ苦手の内に入んねェんだよ・・・首ィ洗って待ってろよ!」 からからと笑いながら首をギィィ、と掻っ切るポーズをして退場して行く辛井。 「面白ぇじゃねぇか・・・」 熱井は、ふつふつと煮えたぎってくる闘志を押さえる事は出来なかった。 入場口通路にて 「ぅいっ、それにしても甘いカレーだったな・・・今度は逆にこっちがとはな・・・ 俺様もまだまだ、修行不足か・・・」辛井は、一人ごちた。 その後も死合は進んでゆき、辛井以上に俺は順調に勝ち進んでいった。 腕が6本あるヤツ、サイボーグ気味なヤツ、スプーンを曲げるヤツなど、 確かに表の世界では見られない、数々の猛者が死闘を演じていった。 分かってはいたことだが、次の準決勝で俺と当たる相手は… 「勝者!辛井!!」 BOOOOOOOO!!!!「こらぁー!!この新参者があ!!」 司会者のアナウンスに、観客からすさまじいブーイングが起こる。 「だまれコラア!このやじうま共!!文句があるならかかってこい!!おい!熱井!!次はてめえとだな!首洗って待ってやがれ!!」 びしいっとこの俺を指さす辛井。 「熱井ボーイ…正直驚いたネ…まさかユー達がココまで勝ち上がってくるとは…」 俺の横でゲイシャガールが驚嘆の表情でつぶやく。 「ふん…。俺はどこの世界だろうと負けん」 おれはゲイシャガールのほうを見ずに立ち上がると辛井の待つ闘技場へ歩いていった…。 「これより、なかよし地獄学園定期大会、準決勝を行います。 今を持ちまして、ベット受付を終了させていただきます」 まるで運動会のようなのほほんとしたアナウンスが入る。 …だから賭をするんじゃない。賭を。 ザシャアッ!! 目の前には辛井がいる。 第二次学園闘争で、日本列島を二分した戦い。かつての敵。 辛井の顔面に斜めに走る傷は俺の芸術的な作品だ。 今度はこんな地下闘技場で相対する事になるとは…。世の中は狭い。 「いよーぅ。ライバル…!この顔の傷の礼がまだだったな…!」 にたあッと辛井が薄笑いを浮かべる。 よっぽど気に入ってくれているのだろうか。ならば今度は反対の斜めに傷を入れて、『×』状にして、『ばつマン』と呼んでやろうか、それともタテに傷を入れてつなげて『へマン』にしてやろうか、などと考えているところに 「準決勝、『熱井』VS『辛井』死合開始!!」 アナウンスとドラがが響いた。「ふんぬああッ!!」 と、同時に辛井が懐に飛び込んでくる。神速の蹴りをかわし、懐にとびこむ。 おれと辛井、お互いの顔の距離が10センチくらいになる。 俺の意向を汲んだのだろうか。辛井の攻撃の足が、刹那、止まった。 そこで俺は、瞬時にある計画を耳打ちする。 そう、『決勝戦の後の計画』…。 その計画の内容は電光石火で辛井に伝わり、二人は火花を散らして飛び退き、 再び広い間合いに戻った。 「おおおおお…」 観客は、今俺達の間で何が行われていたか分からないまま、感嘆のため息をもらした。 ここからは、ただの真剣勝負だ。 俺はあらためて力を解放した。疲れもとれ、奥義も数発は打てそうだ。 ただただ殴り合い、蹴り合い、お互いを確認するかのように、二人は闘う。 鮮血が花火のように飛び散り、地面はエグレメグレに変形し、嵐は来るわ干魃はくるわの もう大惨事だ☆ 「おををらッ!!激辛流穿刀脚ッ!」 しぎいぃぃん!! ヤツの蹴りが俺のガードを削り取る!! しまった!次の攻撃は眼前に迫る!どうする!? 「グァ…ッ!!」 俺のガードを突破した辛井の蹴りが、ほとんど勢いを失わず俺の腹へとヒットした。 恐ろしい衝撃が伝わり、俺はそのまま数メートル後ろへと弾き飛ばされた。 辛井の力はあの時よりも確実に強くなっている。だが、この俺もただ全国を歩いていたワケじゃない。 一瞬ひるみながらも、すぐに態勢を立て直した俺を見て辛井が不敵な笑みを浮かべた。 「さすがだぜ、この俺の穿刀脚をくらって平気でいられるなんてな。その辺の奴なら確実に今ので終わりだ」 「そうやって偉そうに語るのは、俺の攻撃を受けてから言うんだな!」 俺はすでにボロボロになってしまったシャツを強引に破り捨てた。 あのガクランなら、こんな闘いでもそんなにひどい状態にはならないが、 さすがにただのシャツではもたない。 上半身に直接空気を感じながら、俺は意識を集中し始めた。 観客が俺に注目しているのが伝わってくる。 拳に気を集め、俺は奥義を発動させる。 「いくぜ・・・!!!」 そして三戦(サンチン)立ちの構えから深呼吸し始め 「トクン・・・ドクン・・ドクン!ドクン!!」 俺の心臓の鼓動が徐々に加速していく・・・・・・・ 「呼ッ!!!!」 大量の息を一気に吐き出すと同時に俺の肉体が パンプアップをし、はちきれんばかりの筋骨隆々に変身すると 「なっ!なんだと!!そんな馬鹿な!!!」 思わず辛井はベタベタな驚きの言葉をはなっていた。 「辛井よ・・びびっちまったのか?」 俺が静かにつぶやくと辛井は顔真っ赤にさせ憤怒し 10メートルは離れた間合いを一足飛びで詰め神速の蹴りを放つ! 「チッ!」辛井に初弾が頬に掠るも紙一重で捌くと わずかワンインチの俺と辛井の隙間をから奴の胸に拳を 「トン」 人が飛んだ・・・否、辛井は吹き飛ばされた それも普通に強烈な打撃を食らった飛ばされ方ではない。 想像出来るであろうか軽く放ったと思われる拳で 約40度の角度で放物線を描きながら辛井は飛んだのだ。 そして15メートルは飛ばされたであろう辛井は地面に背中を 強烈に打ちつけ呼吸が出来ず口をパクパクさせている。 「一本!!!」審判の声が高らかに響くとは逆に その光景を目の当たりにした場内は水を打った静けさとなった・・・ ワァァァァオオオッッーー!!!!!!! 観客がざわめきす。今まで聞いたことないような驚嘆の声だ。 当たり前だ。いくら、目の肥えた者達であっても、今のような技を目にすることはないからな。 (ま、奥義だから、当たり前だが。) ふと辛井に目を向けると、息を吹き返したのか、こちらを睨みつけていた。 「これで勝ったと思うなよ!!試合には負けたかもしれんが、勝負はまだついちゃいねぇんだっ!!」 まだ殺る気満々ってツラだが、辛井は教官に引っ張られるようにして闘技場から去っていった。 …アレを喰らって、まだハッタリをかますことが出来るとはな。さすが、俺をライバルと呼ぶ『漢』。 「地下闘技場、注目の決勝戦は30分後に行われます。観客の皆様、今の間にご休憩して下さい」 決勝戦か。 決勝戦の相手は、ゲイシャガールからすでに聞いている。 『ピーチボーイ』 俺がここに来て初めて会った『男(?)』であり、俺のガクランを奪った『男(?)』。 奴の手の内は全く不明だが、今の俺には関係ない。 容赦はしねぇ!全力でたたきのめすのみ!! 俺は、最後の戦いであろう決勝戦に備え、最後の調整のために控え室に向かった…。 ……控え室には、当然、ゲイシャガールがいる。 「まさか、マサカ、ユーが決勝戦まで行けるとはネ〜!ミーは、トッテモ『感動した!』ネ! ミーが担当してキタ者の中で、初メテの快挙ネ!!!」 「……少しは静かにしてくれ。集中できん。」 「オー!ソーリー!でも、無理ネー!ミー興奮して、 落ち着いてラレないネーー!まだまだ言い足りナイネー!」 「だまれ」 「…………………」 「…………………」 決勝戦の時間は、刻々とやってくる。 「サテ、そろそろ行くワネ・・・観客を待たせては悪いワ♪」 ひときわ豪華な作りの感のする・・・控え室からピーチ・タロウは姿を現した。 その背中には、『ピーチ』と文字のかかれた桃色の、『タロウ』と書かれた青色の旗指し物を掲げてご満悦だ。 当然、二つにはそれぞれ桃と少年のロゴが刻まれている。芸が細かい。 「・・・意外と早く出るんだな・・・ま、その方が好都合だったがな」 その出て行く姿を物陰でジッと見つめる影が一人。 最早言うまでも無いだろう。辛井、その人だった。 ・・・さては、ピーチにホれたか、 「だれがだよっ!!」 筆者に三村突っ込みを入れる事の出来る人物は数えるほどしか居ないだろう。 なお、これは熱井も辛井も知らない事だったのだが、ピーチが30分の休憩中に出かけるのは『なかよし名物・恐怖の前座☆ショウ』があるためだった。 話を戻そう。 「ってェ・・・アイツ、マジにやりやがって・・・覚えてろよ・・・」 腹部を手でさすりながら、あの瞬間を思い出す。 熱井が、あの時囁いたなかよし地獄学園脱出の為の秘策を。 そして、その作戦の為にはヤツの学ランが必要だと言う事を。 それで、負けてフリーになった辛井が学ランを奪取しに行く羽目になったのだ。 まだ辛井の方が僅かにここに詳しい事を熱井が見越して、だ。 「それにしても、こそこそすんのは性に合わねェなァ・・・全く、下らねェ演出なんか考えやがって」 ・・・かくゆう辛井も、作戦が思いつかなかったから脱出が出来なかった事を付け足しておこう。 ここは、熱井の言う秘策とやらに賭けて、脱出を試みるのが吉だ。 勝負は、それから何時でも出来る。 「さぁてとな・・・鬼が出るか、蛇が出るか」 ギィ・・・ と言う立てつけの悪い音を立ててピーチ・タロウの控え室の扉は開いた。 「なんだい、こりゃ」 辛井は絶句した。 勢い良く扉を開いた辛井が目にしたものは、桃の格好をした冷多井であった。 「前々から貴方たちの計画は読めていたのよ!観念する事ね!!」 冷多井は勝ち誇ったかのように嘲笑った。 出番が無かったというのはここまで人を変えてしまうもか・・・ コンチクショー桃人間め!と大きな声で叫んでやりたい気分だが・・ 女性には熱く優しく時にはチクッと(謎)を心に誓っている辛井は、くっと堪えた。 「少し大人になったかもしれないな・・・」 辛井はそんなことをポツリとつぶやき一人納得、桃人間になっている 冷多井を放っておいて学ランを探し始めた。 「後で覚えておく事ね!風紀を乱した野郎はただじゃすまないんだから!」 桃人間になっている冷多井は自分が一番風紀を乱した格好をしているにも関わらず偉そうにそう残して去っていった。 ・・・・・ 探し始めてから少し時間がかかってしまったが熱井の学ランを見つけることが出来た。 「時間使いすぎたか・・・・さてと戻るとするか・・・」 勢い良く熱井の学ランを振り上げたその瞬間だった ドサドサ!! 「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜」 辛井はおったまげた・・・ なんとガクランのポケットというポケットには全て頑丈な南京錠が取り付けてあった。 「こっ…これじゃあガクランを取り返したって原子力4次元ポケットから兵器を出せないじゃねえか!」 確かに兵器が出てこない原子力ガクランなどただの臭い黒い布だ。 そして兵器なくしてこの『仲良し地獄学園』から脱出することは不可能だろう。 (そうか…。冷多井が俺を見つけておきながらあっさり去っていった訳はこれだったのか…) 辛井は舌打ちした。 冷多井は桃の格好をしていた。ということは『なかよし名物・恐怖の前座☆ショウ』に出るということなのだろう。 そしてヤツはショウに遅れない為に足早にここを去ったのではない。 『絶対にガクランを取り戻されない』自信があったのだ。 辛井は考える。 (…ヤツの性格からして南京錠の鍵を誰かに渡すことは考えられない。つまり、ヤツは鍵を持ったままショウに出る、と言うことだ。) 「くそっ…!部屋に忍び込めばガクランを取り返せると思ったんだが…。とんだ寄り道をしなくちゃあならなくなったな…。」 ショウのすぐ後には熱井とピーチボーイの決勝戦が行われる。 おれらのガクラン奪取計画はおろか、このままでは脱走計画まで奴らに知られてしまう。そうなれば警備が増強されてしまうだろう。あの脱走計画を実行するためには、ここはなんとしても決勝戦が始まる前にガクランを取り戻さねば!! ガン!! 「やってやろうじゃねえか!!ショウにうまく紛れ込んで、あの冷多井とかいう野郎をぶっ飛ばせばいいんだろう?」 辛井は『なかよし名物・恐怖の前座☆ショウ』が今まさに始まらんとしている闘技場へ、拳をばんばん打ち付けながら大股で歩いていった。 もちろん彼が蹴り技を得意としている事は言うまでもない。 ワーワー!! ショウのためにキグルミを着た生徒達が大勢スタンバイしている闘技場の隅で、辛井は格好のキグルミを見つけた。 「へっ。こりゃあおあつらえむきだぜ…」 辛井が見つけたキグルミとは… (つづく) |