サークルSASラスト対談
四谷大介×今井神

『白砂村決死行』

<文責:SAS四谷大介>
<2005年12月収録>
「白砂村」の取材旅行計画担当の四谷氏と今井神が
当時の旅行の裏話やこれからの白砂村の展開を大幅な誇張をまじえて語る(おい、
サークルSAS最後の対談!



晩秋の夕方、深い山の中。

 橙色の夕陽に照らされた斜面が広がり、下の方には小さく人里が見える………ごくありふれた山奥の光景なのだが、なぜか異様なことに、その斜面は木々や草ではなく、一面真っ白い砂で覆われているのであった……。

 その砂丘の様な斜面に、二人の男が崩れる様にして座り込んでいた。二人とも息で肩をはずませ、片方は砂の上に腕を突いてうつむき、もう一方は仰向けに体を投げ出している。

「……ここまで来ればさすがに大丈夫だな、今井君…」
 二人のうち、頭を丸めた短躯の男が、仰向けのままもう一人に呼びかけた。長髪を垂らして下を向いていたもう一人が答える。
「ええ……。四谷さん、ケガとかないですか?」
「ああ。お互い無事の様で何より……って今井君、全身ひどい傷じゃないか!」
「大丈夫ですよ、漫画家は頭と目と利き腕だけ無事なら食べて行けますから」
「それに…その足、両方とも折れてる様だが」
「大丈夫ですよ、漫画家は頭と目と利き腕だけ無事なら食べていけますから」
「…目が……両方ともえぐり取られてるじゃないか…」
「大丈夫ですよ、漫画家は頭と目………あーっ!…よ、よ、四谷さんっ!」
「し、しっかりしろ!」
「すると俺はここまでどうやって走って来たんでしょうかっ?!」
「そういう問題かー?!」
「あ!ああ!!」
「どうした今井君!」
「漫画描く時とDVD観る時以外はもったいないから外してたんでした!」
今井と呼ばれていた長髪の若者が、傍らのリュックサックから仕事疲れで充血した目玉を取り出した。四谷という方の男が、見事な前方回転受け身でずっこける。
 今井は、ぽすっ、ぽすっ、と目玉をはめ込みながら四谷に愚痴った。
「しょうがないじゃないですか…目がいくら消耗しても経費で落とせないんですよ」
「……経費って言えば、この取材旅行、経費で落とせるのかい?」
「うーん………安姫さん、あれだけ言ったのに領収書くれるの忘れちゃってたし……」
「もらったところで、地図にない住所書かれてもなぁ………」
男たちの会話のみみっちさに落胆するかの様に、秋の夕日が足早に落ちていく。



今井「それにしても、『白砂村』ではいろんなことがありましたね…」
四谷「うん。……弥都波ちゃんは、きれいな娘さんだったねぇ」
今井「ええ、そりゃヒロインですから…アングルやポーズにも凝りましたし」
四谷「…迦具ちゃん、ちょっと冷たかったけど…かわいかったねぇ」
今井「ええ、実は一番のお気に入りで、結構力入れて描いてたんですよ」
四谷「……産巣日ちゃん………ハァハァハァハァ…」
今井「ええ、ハァハァハァハァ…」
四谷「ところで」(本稿が発行禁止になっては元も子もないので)
四谷「登場人物といえば、何かとネタがあるよね」
今井「はい。大神ってのが某ゲームの主人公と同名な上にそのゲームのヒロインが弥都波とキャラかぶってる、という噂を聞き込んだ時はヒヤヒヤしました」
四谷「ああ、そうだったねぇ」
今井「幸い五百円で売ってた○ガサタ○ンを買ってきてプレイしたらそれほどかぶってなくて一安心でしたが」
四谷「セ○サタ○ンの話はやめろおぉぉぉぉ!」
(四谷はそのゲーム機の没落以降恐くてゲーム機が買えない体なのである)
今井「そうだ、『宮本音禰』っていうネーミングの元ネタが分かる人って、どれぐらいいるかなあ」
四谷「大神の記憶に出てくる『俊作』っていう自分の名前もそうだな」
今井「気がかりな人は『金田一耕助』シリーズを買ってお読み下さい」
四谷「間違えて『金田一少年の事件簿』を端から買って苦情を言わない様にして下さいね」
今井「あ、イザナギ・イザナミの他にも、日本の神話から取ったネーミングがたくさん出てます。『日本書紀』を読んでから『白砂村』を読み返すと楽しめますよ」
四谷「ためになる漫画だよね……という訳で商業誌では『まんがでわかる日本の歴史』という題名で掲載されます!」
(ウソです)



四谷「しかし同人誌最後の四巻だけど、話がグッと大きくなった上に、迦具に殺されんとする大神の運命やいかに………いいところで終わってるよねぇ」
今井「ええ、そうやって次へ引っ張るのは基本中の基本ですから!」
四谷「引っ張り過ぎてちぎれてる感じもするが」
今井「……あはははは」
(早いもので、四巻の初版からかれこれ三年が過ぎている)
四谷「ともあれ、これだけ引っ張った上に『商業誌でお会いしましょう〜』ってことは、当然、ラストまで筋書きを考えてあってのことだよね。まさか今井君に限って『適当に描いてて行き詰まった』なんて事じゃないよね!」
今井「え!………ええ、そりゃもちろん!」
(今井の頭上に四〇ポイントの特太ゴシック体で『ギクッ』という文字)
四谷「じゃ先生、今後のストーリーの伏線になってたところなんぞを差し支えない範囲でどうぞ!」
今井「え…えー………、あ、大神の『宮本音禰』についての記憶がですね、この先の物語にですね、大きく関係がなきにしもあらずと思われなくもない今日この頃でございます」
四谷「なるほど……でも、それって読めば誰でも何となく分かる様な気が…」
今井「あぁ(汗………」
(フォロー:以上が話の大きなポイントになっているのは本当です。ご期待あれ)



四谷「ところで、同人誌を始める時の取材旅行はすごかったねぇ」
今井「ええ。描こうとしてた『隠し里』がいきなり見つかりましたもんね」
四谷「まあ『隠し里』と言ってもひどい山奥ってだけで、地図にも載ってる訳だけど」
今井「…しかし、そのまま『白砂村』で話にしましたが、あの村は本当に、いったい何でもって生計を立てているのか……」
四谷「ああ、あれから調べたんだけど我々が見なかったとこにも畑や果樹園が少しあって、それから林業が少々、あとは最近話題の橋や道路やらの工事に出て現金収入を…」
今井「人が大事にネタ元にしてる謎をぶち壊さないでくださいよ!」
(実はこの話も『白砂村』の今後に関わりが!)
四谷「まあそれはさておき、取材はあちこちに生きてるよね」
今井「タバコが五、六種類ぐらいしかないのには参りました」
四谷「うん、『買う人が決まってるから』っていうのがすごかったね。…そうだ、西島家に使ったあの民宿、いい味出してたよね…」
今井「…宿のおばさんが玄関脇で草むしりしてるから何だろうと思ってたらその草が天ぷらになって夕食に出てきたときはびっくりしましたけどね。」
(以上の話題は一巻でなんとなく使ってます)
四谷「とにかく『白砂村』で出てくる風景のほとんどが、本当にある場所です。興味のある方はお出かけを」
今井「ええ、自然以外何にもないとこですけど、『何にもない』っていうのはいい気分転換になりますよね」
(場所については今井神ホームページの『白砂村紀行』で分かります)



「それで、今回また取材旅行に連れてきてもらったのはうれしいんですが…」
 今井の顔に、ふっ、と影が差した。
「ですが、何だい?」
正面の宙を見つめたまま、四谷が今井の言葉を受けた。
「何でズバリ白砂村に着いちゃうんですか!地図にも載ってないってのに!」
「そこが幾多の旅行経験に基づき日本地理を極めた私の偉大さだよ今井君!」
「…市販のごく普通の地図を指しながら、『ここへ行くぞ』とおっしゃってたはずですが」
「……あー………あそこで東に向かう道へ入って………東って、太陽が沈んで行く方だよね?」
「どこが地理を極めてるんですか!要するに道を間違えたんじゃないですかっ!」
「……ま、まあ…、おかげで真実味いっぱいの取材ができた訳だし…」
 その時、麓の方から叫び声がした。
「見つけたぞ!」
 ………大神たちが白砂村へたどり着いた時に彼らを追い返した村人たちが、今井たちの百メートルほど下まで肉薄していた。しかし、大神たちが村を追われた時と違い、鎌や斧や鉈、あるいはなぜか刀…と、村人たちはその手に武器をぎらりと輝かせながら斜面を登ってくる。
「やばいぞ今井君!」
「見れば分かります!」
 二人は起き上がり、白い砂を蹴って上へと駆け出した。追っ手は老いた者たちばかりでさほど速くはないが、二人も傷を負っている上、軟らかい砂地が足の運びを鈍らせる。
「…あんな『秘密』を見られたら、そりゃ、生かして返さないよな…」
荒い息の下から途切れ途切れに、四谷が今井に話しかける。
「……ええ…」
今井がやや遅れて、やっとのことで返事を返す。
「…そうだ、今井君」
「な、何でしょう?」
「あの『秘密』を、物語に使いたまえ!」
「そうですね!」
 日が沈み切り、視界が怪しくなり始めた中で、二人の命がけの駆け足は続く。白砂村の『秘密』とは、いったい何だろうか?それはもし今井が無事に取材旅行から帰る事ができれば、いずれ彼が明らかにしてくれることだろう。



     

※この作品は2005年12月に発行された白砂村新聞最終号に掲載されたフィクション対談です。

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